プレスト・チャンゴ
Presto Chango
by Brian
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《 解 説 》
ブライアンさんという方が書かれた長編。なかなか読みごたえがあります。(当然、「訳しごたえ」もあったんですが‥‥。)
その長いお話の中に、セックスシーンは1か所も出てきません。
そのぶん、女装小説の「定番シーン」は、フルコースで出てきます。
たとえば‥‥年上女性の手助けによる初めての女装、女の子としてのトレーニング、初めての外出、美容サロン、ショッピングモール、ダンス(「美容院」「モール」「ダンス」はアメリカ女装者の三大あこがれ?)、結婚式(本人のじゃないけど)、他の女装者との交流、女性ホルモン、豊胸手術、水着、男とのデート‥‥、おまけにサブリミナルの催眠誘導まで、まさに「全面展開女装小説」と言ったところです。
ただ、そうしたルーティンをちょっとずつひねった形で出してくるのと、主人公が、そう簡単には「女の心」になりきらないのが、この作品の面白いところ。
ちなみに、後半舞台となるラスベガスは、サンフランシスコと並び、全米中最も、性(というか“性別”)に関して、リベラル(というか“ラディカル”)な街。最近話題の同性どうしの結婚を、初期の頃から認めた街だったはずです。だからこそ、作中のようなクリニックも現実味を帯びてくるわけです。これが、アメリカの「一般」というわけではないと思いますし、作者が場所をラスベガスに設定した理由も、そこにあるわけです。
ストーリーとしては、そんなあれこれが、オールド・アメリカンな由緒正しきラブロマンス(自我に目覚めた女+意志は強いが不器用な男)の中にきれいに組み込まれています。作者と同名の「ブライアン」氏のキャラクターが大きいのでしょう。
まあ、私の好きな「シンデレラ・ストーリー」でもあるわけてす。
その中でも「バックステージもの」というやつ。貧しい「楽屋の少女」が、アンダースタディ(代役)を機にスターになって幸せをつかむお話(の女装版)です。でも、背景となる世界が、映画でも音楽でも演劇でもバレエでもなく、マジック(「魔法」じゃなく「手品」ね)だというところが、ひねりがきいています。
題名の「プレスト・チャンゴ」は、presto(すぐに、速く)も、chango(変化、チェンジ)もイタリア語。たぶん、欧米の手品のステージで使われる“おまじない”‥‥というか常套句なのでしょう。
「アっという間に早変わり!」というやつだと思います。
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