「やらせ」なんか怖くない
Making Do
by Karen Elizabeth L.

ダウンロードは
《解説》の下にある画像をタップ。

《 解 説 》

 以前、ワイドショーかなにかで「海外おもしろテレビ番組」を特集したコーナーがあり、そこで、こんな番組が紹介されていました。

 一般人から選ばれた白人と黒人の2家族に特殊メイクを施し、何ヵ月か立場を入れ替えた生活をさせる。白人家族は黒人家族として、黒人家族は白人家族として新たに家を借り、会社や学校に通い、買い物をし‥‥。そんな日常生活の中で、白人は、いまだに黒人が差別的扱いを受けていることを身をもって知る。黒人の方は、最初おどおどしていたのに、だんだんいい気持ちになって、自らも他の黒人に対して差別的ふるまいをしたりする‥‥。番組は、その過程をつぶさに(だいたいは隠しカメラで)追っていくわけです。

 テレビ的な「やらせ」演出も多分にある気はしましたが、特殊メイクのテクニックをはじめ、仕掛けの周到さや大がかりさにあきれ、一方で、その悪趣味とも言えるラディカルさに、いかにもアメリカだなあと感心したものです。

 ここ数年、あちらでは、そんな「リアリティTV」と称する視聴者参加型セミドキュメンタリーが流行っているんだそうです。
 だとすると当然、男女の性を入れ替えるような「リアリティTV」もあり得るわけで(実際、作られてるんじゃないかな?)、そして、だとするといずれ、Fictionmaniaあたりにも、そんなネタの小説が出てくるんだろうな‥‥と思っていたら、もう、ありました。
 まあ、女装小説にありがちなご都合主義的設定は多いですが(特に結末は「そりゃ、いくらなんでも」という感じですが)、想像力豊かなストーリー展開や、作者がさかんに使う‘girly’な雰囲気の描写は、かなりワクワクします。

 ところで、原題の「 Making Do 」ですが‥‥。
 辞書によると「 make do 」というのは「(手持ちの物で)間に合わせる」という意味の熟語です。小説の冒頭部分では「(少ない収入の中で)やりくりする」という意味の使われ方をしています。(主人公は、父子家庭の生活費を得るため「女装番組」への出演を決意するのです。)後半では、ハロウィーンの衣装を「(お古で)がまんする」という意味にも使われています。(ストーリーはとんでもない展開をし、父と息子たちは「1960年代の母娘像」を実体験することになります。)
 一方、話全体を考えるなら、このタイトルには、男で女を「代用する」という意味合いも込められているのでしょうし、また、「 make +動詞の現在形」には、意志を強調すという用法もあるようなので「やるっきゃない」というような語感があるのかもしれません。

 で、それらすべてをカバーできるようなうまい日本語が見つからず、思い切ってこんなタイトルをつけちゃいました。この手の小説のマニアにはわかると思いますが、ハインラインのあの名作(の邦題)にあやかったわけです。(あの邦題も、まあ、『ヴァージニアウルフなんか怖くない』のパロディでしょうからイタダキのイタダキです。)
 とはいえ、私の英語力。あれほどの名訳に対して、おこがましいにもほどがあるというものです。



■上の画像をタップすると、スマホ用PDFファイルがダウンロードできます。
■機種によって、自動表示するものとしないものがありますが、ダウンロード用のフォルダの中に入っている
making.pdf
というファイルを開けば読めます。

▲ページトップに戻る