処女航海
Maiden Voyage |
ファンタジーと分類されるようなお話の中には、「双子もの」といったタイプがけっこうあります。 要するに、マーク・トウェインの『王子と乞食』――「わけあって別々に育てられた双子が、ある日、偶然出会い、ひょんなことから立場を交換する」というお話です。 推理小説とか、映画やドラマなどにも、このモチーフはよく出てきます。双子ではないものの、うり二つという点では、チャップリンの『独裁者』なんかも含めていいかもしれません。 で、そもそもが性の交換物語である女装小説にとっても、こんなにおいしい(かつ安易な)モチーフはないわけです。 双子の兄妹(姉弟)が入れ替わるという話は、国内外を問わず、ずいぶんあります。 ただ、そんなご都合主義ともいえるモチーフ(厳密に言えば、「男女」の場合は「二卵性」でしかなく、ふつうの兄妹以上に似てるわけじゃないですしね)を持ってきた場合、その理屈づけによほど気を配らないと、たちまちウソっぽくなります。 つまり、「わけあって別々に育った」の「わけ」と、「偶然出会い」の「必然性」と、「ひょんなことから立場を交換する」の「ひょん」(?)のすべてに、合理的でユニークな説明がついていないと、読んでる方はしらけるのです。 その点、この小説はよくできています。 以前掲載した『プレスト・チャンゴ』と同じ作者だけあって、ロマンティックかつスラブスティックな展開に強引に持ち込んでいくにもかかわらず、そのあたりの骨格がしっかりしているので、ウソが気になりません。 登場人物の性格描写がわかりやすく、その性格が、ストーリー展開の重要なカギになっている点も大きいでしょう。これは、エンターテインメント小説の鉄則です。 一文が短く、むずかしい言いまわしが少ないのも(訳す身にとっては)すてきです。いや、簡単な言いまわしだからこそ、そこに含まれる意味まで理解し、ぴったりの日本語をあてるのがむずかしいということもあるんですが‥‥。 ちなみに、タイトルは直訳。これもまた、ストーリーの中身をいろんなレベルで言い表した含蓄ある題名です。 とにかく、楽しくてファンタスティック。 よくできたシチュエーションコメディに笑いながら、主人公にも素直に感情移入でき、夢のような世界が堪能できるはずです。 |
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